イタリア自動車雑貨店
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2008

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2008年02月23日
殺すリスト

先日、道路の縁石でフロントのエプロンをガリッと擦りました。まあ、擦ったというより当てたという方が正確なんですが、結構大きな音がしました。ちなみに私はたまごではありません。サンサロです。お久しぶりです。で縁石ですね。その場では当ててしまった場所を見もしないで走らせたのですが、近くに駐車した時にすかさず同乗者がチェックしました。それで彼曰く「ああ、これ、ちょっと見ない方がいいよ」です。そんなぁ、見ますよ、見ます。エッ、そんなに酷いの?

う〜ん、確かに酷いなぁ……。フロントエプロンの最下部に約40cmくらい、ガリガリッと擦ってペイントが剥げています。最下部と言っても見えない部分じゃないですよ、真正面を向いてるところです。フォグライトの下。準備万端のサンサロ、早速コンパウンドをラゲッジルームから引っ張りだしてきて、その場で磨いてみました。まあ、白くザザーッとなった部分は少し薄くなりましたけどね、決して軽傷というわけではありません。ボディはブラックです。やっぱり目立ちます。

それで忙しさにかまけて数日ほどそのまま放置していたのですが、無論その間、常に頭の隅にこの一件があったのは言うまでもありません。とうとうサンドペーパーとペイントを買ってきました。なぜか「貼る」とか「塗る」とかいう作業、好きなんですね。四谷の店の事務所のロッカーにも、不良品のステッカーずいぶん貼りましたし、売り場の什器の剥げたところとか、ラックとか、イタ雑イメージカラーのグリーンに塗ったのは何を隠そうこの私です。で、そこで得た教訓、厚塗り厳禁、を胸に、勇躍サンドペーパーと缶スプレーを持ってクルマに向かいました。いつも厚く塗りすぎて、というか、乾く前に何度も塗ってしまって、必ずタレるんですね。待てない、ということです、性格的に。

ところが、よくよく考えてみると、その作業をする場所がありません。洗車場の脇でやろうかな、と思ったけど、13kmも離れたところです。遠すぎます。あっ、すいません、これ、トリノでの話です。東京じゃありません。近くの路上はぎっしりクルマが駐車していてとてもそんなスペースはないのです。それで頭を巡らして、そうだ、と膝を叩きました。5kmほど離れたところに、なんだかよくわからない空き地があるのを思い出したのです。5kmだって十分遠いですけどね、助手席でスプレー缶がカランカラン歌うのを聞きながら早速出発しました。

風もなく、暖かい一日。絶好の塗装日和です。到着した空き地には先客の大きなトレーラーが2台停まっていましたが、中に人はいないようです。まずはサンドペーパーでゴシゴシ傷を均し始めました。みるみる下地が露わになってきます。いいのか、こんなにして、って思うほど一心不乱にペーパー掛けに没頭しました。さて、ペーパー掛けは塗るのに比べるとそれほど好きではないので、もう早く塗りたくて右手の人差し指がウズウズしてきました。まっ、こんなもんだろ、とペーパー掛け終了。なぜだかマイナスドライバーをこじ入れてキャップを開けるようになっているイタリアのスプレー缶を手に、カラカラカラカラ、よく振り始めました。これ、ポイントですね。早く塗りたいからといって、適当に済ませちゃいけません。

さあ、いよいよ、塗装開始です。待ちに待った瞬間。5kmも走ってやってきたんですから、上手くいって欲しいです。まずは軽く、ほんとうに軽く、下塗り。サフェーサーは省略です。いっぺんにブラックにしようとすると必ず厚塗りになるので、ここはまだ下地が見えてるくらいでやめておきます。いいぞ、上手くいった。これでこれが乾くのをちょっと待とう、と立ち上がって、やることもないのでスプレー缶をカラカラカラカラ振って待ちます。しばらく経って、そぉっと塗装面を指で触れてみると、乾いてます! よし、2回目開始、とまた人差し指に力を込めて塗り始めました。と、その時、背中からガラガラ声がやって来ました。何、やってるんだい? 

しばし中止。振り返ると杖をついた老人がいました。ああ、ヤバイなぁ、と思います。こういう年金暮らしの老人は基本的に暇で寂しいから、話し相手を求めています。それじゃなくても話し好きのイタリア人、いったん始まると長いです。どういうわけか老人受けがいい私、四谷でも近所の老人に、イタリーですか、いいですなあ、なんてよく声をかけられています。仲間だと思われてるのでしょうか? で、その日はなるべく素っ気なく、塗ってるんですよ、ぶつけたから、とそれで済ませて作業に戻りました。が、敵はやっぱりイタリア人、それでは済みません。しかも、話してるだけならまだしも、それがほとんど質問なんですね。もう、気が散ってまったく集中できません。

何処でぶつけた? 国は何処だ? イタリアで何をしてる? うるせぇんだよ、じいさん!とは思うものの、根が優しいのでひとつひとつ律儀に答えてしまいました。でも、気持はスプレー缶に向いています。早く塗り終えたい。3回目を塗り終えてあと一息です。4回目。これで最後、これで仕上げという塗りの最中でした。老人が横に並んで腰を下ろしたのです。その瞬間、そちらに気を取られた一瞬、手の動きが止まって、一点集中でスプレーを吹いてしまったのです。

タレていました。殺意――。ガラガラ声の元気なくそじじいの顔を、ダラダラにタレるほどに真っ黒に塗りたい、本気でそう思いました。
11:48 by サンサロ


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